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『花箋』 くちなし5

くちなし5
やえちゃんは忙しく楽しそうに立ち働いていた。
私たちの傍にはあまり来ないで、お客さんのお酒ばかりを受けていた。
やえちゃんがコップ酒を一気に飲む干すと大きな拍手が起こる。
通りすがりに「加代子さんと仲良かった?」と呟いた。
優等生で世話好きな加代子さんはやえちゃんの苦手な人種なのだ。
中学時代からの同級生でいつもやえちゃんは加代子さんから見当違いのお説教をされていた。
邪魔になってもいけないからと私たちは早々に店を出た。
由希子ちゃんのことが気になった。

次にやえちゃんに会ったのは10年後だった。
息子が中学生、娘は小学生になっていた。
夫の東京への転勤によって横須賀で暮らすことになった。
通勤時間が一時間なんて当たり前の時代で、加代子さんの助言によって石段の街へ戻ってきていたのだった。
加代子さんが「おかえりなさい、冬子さん」というクラス会を開いてくれた。
担任だった先生も出席されて賑やかだった。
殆どの人が地元で暮らし、母親になっていた。
母親になっていない人にも華やかなドラマが幾つもあるみたい。
変遷ぶりを眺めるのは楽しかった。
が、その席にやえちゃんは現れなかった。
それが少し引っかかった。
やえちゃんももう私には会いたくないのかもしれない、そう思った。
が、翌年の5月の真昼間にやえちゃんから電話がかかってきた。
もう、その頃のやえちゃんは思い出の人になっていた。
遠い遠い、けれど大切にしまってある思い出。
最初の「もしもし~」だけでやえちゃんとわかった。
国籍の違う従姉からの電話のような気がした。

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